第34回 東海若手セラミスト懇話会
2007 年 夏期セミナー開催報告

東海若手セラミスト懇話会
日本セラミックス協会東海支部


去る6月28日(木),29日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2007年夏期セミナーが静岡県浜松市の浜名湖レークサイドホテルで開催されました.今回は過去最多の124名(学生75名,一般49名)の参加者を集め,招待講演3件,テーブルディスカッション56件(学生45件,一般11件),学位論文紹介1件,海外報告2件の発表が行われました.以下,進行順に内容を報告いたします.


1日目;13:30,定刻通り名古屋工業大学の井田運営委員代表の挨拶により会が始まりました.今回は英語(日本語の字幕つき)で挨拶が行われました.6名の留学生の参加があり,彼らへの配慮によるものと思われますが,国際化が進むこれからの社会での英語の重要性を訴える意味で,日本人の若手の研究者や学生たちにも刺激になったのではないでしょうか.

引き続き招待講演1として,慶応義塾大学の今井宏明先生より「生物をまねた自己組織化による無機材料合成」と題してお話を頂きました.(写真1)“中庸の面白さ”をキーワードにバイオミネラル合成のご研究を紹介していただきました.「“無機と有機”,“鉱物と生物”,“結晶と非結晶”などの“中庸”にバイオミネラルの面白さがあり,結晶成長の新しいパラダイムがある」というちょっと哲学的な言葉を交えながら,無機ナノ結晶の自己組織化や,その結果得られる階層構造をいかに有機分子の働きを利用して制御するのかを,わかりやすく面白くご講演いただきました.先生の話の面白さにくぎ付けになった学生さんも多かったのではないでしょうか.

テーブルディスカッションのアピーリングタイム第1部が,招待講演1の後に行われました.夜に行われるテーブルディスカッションのアピールを一人30秒の持ち時間で1枚の資料を使って行ってもらいました.限られた時間の中で工夫を凝らした一生懸命のアピールが多く見られました.

続く招待講演2では,大阪大学の大原 智先生から「無機・有機・バイオ多元ナノ粒子の創製」というタイトルでお話を頂きました.超臨界水中での無機ナノ粒子の表面処理とその応用についての研究成果を紹介していただきました.水と油が気体と液体が超臨界水中では均一に混じり合うという性質を利用した無機ナノ結晶の表面修飾が,有機溶媒中に無機ナノ粒子が分散した透明なコロイド溶液の調製を可能にすることや,その技術とバイオ化学とを融合させて,無機ナノ粒子の低次元配列の作製に成功した話など,ナノテクノロジーの最先端の研究について,わかりやすくご講演いただきました.この分野の研究に興味を抱いた若手の研究者や学生さんも多かったのではないかと思われます.

テーブルディスカッションのアピールタイム第2部が招待講演2の後に第1部と同様に行われました.

夕食を兼ねた意見交換会は,バーベキューで行われました.至る所で会話に花が咲き交流の輪ができていました.非常に盛り上がり中締めの挨拶があった後も,多くの人がバーベキュー会場に残りテーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換が続いていました.

テーブルディスカッションは,56件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました(写真2).このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表ポスターをテーブル上に並べて発表する形式です.テーブルディスカッションの発表件数も,おそらく過去最多と思われる56件と多く,アルコール飲料を片手に持ちながらの議論であったことも手伝って,会場はものすごい熱気でした.熱心な討論が22時まで続けられました.なお,招待講演の講師の先生と一般参加者の投票により選ばれた優秀な発表に対して,運営委員代表賞(1件)と優秀発表賞(4件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記したとおりです.熱心な議論や交流は,場所を移して催された二次会の会場で,3時過ぎまで続けられました.


2日目は,名古屋工業大学の柿本健一先生による「圧電セラミックスの鉛フリー化研究」と題した招待講演3で始まりました.ご講演では,WEEEやRoHSによる鉛含有物に対する規制の現状や,PZTの代替物として期待されているニオブ酸アルカリ化合物の研究成果についてご紹介いただきました.ご講演では,ニオブ酸アルカリの優れた特性だけでなく,ニオブが希少金属であることやニオブ酸アルカリが湿気に弱いことなどの問題点にまで踏み込んでお話しいただきました.そのお話には,環境問題解決にむけて,PZTの代替材料となる圧電体を少しでも早く世に送り出さなければならないという先生の情熱がうかがえ,若手の研究者や学生さんはおおいに刺激を受けたことと思います.

今回も招待講演に対する学生の質問の中から各講演につき1件ずつ,ベスト質問賞が贈られました.これは,学生が積極的に講演の質問に立つことを促すために考えられた賞で,ご講演いただいた先生に選考していただいております.今年で3年目となりますが,非常に多くの学生が積極的に質問に立つようになり,明らかに議論の活発化につながっていると思われます.今回の受賞者の氏名と所属は,本報告の最後に記したとおりです.

休憩をはさみ,学位論文紹介では名古屋大学大学院の川内儀一郎先生が「水熱プロセスによる微構造制御リン酸カルシウム多孔体の作製と評価」というタイトルでバイオマテリアルとしての人工骨の設計,合成から動物実験による実用化の検証までにおよぶ学位論文の研究成果を丁寧に説明してくださいました.学位取得に向けて刺激を受けた学生さんも多かったのではないでしょうか.

次に海外報告として,ファインセラミックスセンターの山本和生先生より,アリゾナ州立大学の電子顕微鏡センターに滞在された際の生活についてご報告していただきました.日本との環境の違い,特にアリゾナの暑さや華氏での温度表記などの単位への戸惑いなどを,アリゾナ実験(?)のレポートを交え,リラックスした雰囲気で報告していただきました.また,休暇を利用しての旅行やアリゾナで知り合った友人とのパーティーの様子なども写真と動画を交えて紹介していただき,若い研究者や学生さんの「海外留学したい」という気持ちを書きたてたのではないかと思います.

もう1件,海外報告として,名古屋工業大学の横田壮司先生より,ネブラスカ州立大学リンカーン校に博士研究員として滞在された際の生活についてご報告していただきました.「日本人がアメリカの田舎に行った一例」というサブタイトルで,留学に至るまでの経緯,留学先の見つけ方,ネブラスカでの生活の立ち上げ,日本に帰国するときの注意事項までの様々な有益な情報を,ネブラスカ州の紹介を交えながらご報告いただきました.とくに「これから海外に飛び出したい」と思っている学生さんには,非常に参考になったのではないかと思われます.

最後に昼食をとりながら,テーブルディスカッション優秀発表賞とベスト質問賞の発表と表彰を行いました.運営委員代表特別賞を受賞した名古屋工業大学の岩田君には,伊田代表が自ら準備したエコバッグ(写真3,4)が贈られ,そのエコバッグに託した代表の思いが熱く語られました.最後に秋季講演会での再会を約束をし,閉会しました.

例年本セミナーでは,クール・ビズスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました.また,合宿形式ということもあり,夜遅くまで研究のことだけでなく様々なことを語り合い,東海地区の若手が親睦を深める良い機会となりました.この場をお借りして,次回にもより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.

なお、本セミナーの詳細は、東海若手セラミスト懇話会の公式Webサイトである http://www.atyc.org/ でも紹介しております。


優秀発表賞受賞者(敬称略)
(○:東海若手セラミスト懇話会運営委員代表特別賞)
○岩田知之 名工大 「新規な層状炭化物の合成と結晶構造解析,熱電特性」
岡部拓美 愛工大 「CVI法による低温炭素化ろ紙へのカーボンコーティングと電気化学特性」
楠本啓貴 名大 「レーザー色素/層状チタン酸ナノ積層型発光固体材料の作製とその発光特性評価」
中村雅人 名大 「水溶液プロセスを利用した高分子電解質多層膜上でのFe3O4析出とハイブリッド中空カプセルの作製」
宗 頼子 名大 「量子サイズ効果による二次元電子ガスの巨大熱起電力」

ベスト質問賞受賞者(敬称略)
小川史人岐大
中西由貴名大
今泉晴貴名大

written by 伴 隆幸(岐阜大)


写真

写真1 写真2 写真3 写真4


2007年7月 3日